被曝治療83日間の記録 [本]

 大内久さん。35歳。妻と小学3年生になる息子がいる。几帳面な性格で、一日一箱のたばこを吸い、毎晩、焼酎の水割りを2杯ほど飲んで寝る。高校時代はラグビーをやっており、身長174cm体重76kgのがっちりした体格。趣味はつり。核燃料加工施設「JCO東海事業所」勤務。

 1999年9月30日10時35分。臨界事故。被曝。

 この本は、大内さんが、青い「チェレンコフの光」を見てからの、彼と彼を支えた人たちの83日間の闘いの記録である。

 被曝8日目のちょっと日焼けしたように見えたという右手の写真がある。入院してきたときには、「よろしくお願いします」と自らあいさつし、看護婦の問いかけにも「うん、疲れたし、だるい」というような普通の会話をしており、周りは被曝したことが信じられないような思いをもつ。
 そのすぐ下に表皮が失われ、赤黒く変色している26日目の写真が並んでいる。(p.88とp.89の間・カラー)

 被曝20日目の看護記録に「妻、妹の面会あり。「お父さん、ロボットみたいになっちゃって」」とあるが、まさにロボットがベッドに寝ているような写真がp.77に載っている。

 東海村臨界事故として、周囲10kmに避難勧告がなされ、マスクや防護服を着た人たちがものものしく作業をしている様子など、記憶に残っている方も多いことだろう。私自身も、最初に読んだ頃に、たまたま映画「K19」を見る機会があって、放射線の恐ろしさを改めて感じていた。しかし、この本は、臨界事故の恐ろしさを伝えると同時に、大内さん(あるいは大内さんの身体)を通して、「いのち」ということについて、いやおうなしに考えさせる。

 なんで、こんなよい本が絶版になるのか、不思議でならない。幸い文庫としてでているようだが、写真等のこともあり、機会があれば、ぜひ岩波版の方を読んでもらいたいと思っている。


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ミノ〜+

僕もこの本は読みました(新潮文庫)。あっという間に読みきり、いろいろ考えさせられました。
写真にもある一番放射線の影響を受けた右手の変わり様とその経過の早さにショックでした。
今まで原子爆弾などから知識として放射線の恐ろしさを知っているつもりでしたがこの本で人一人が受ける被爆の悲惨さと人間の無力さを痛感しました。心臓の筋肉だけ影響を受けなかったのはこの絶望的な治療記の中で人間の光明を見たようでした。
いろいろな人に読んでもらいたい本です。
ネットでこのドキュメンタリー番組を発見してそちらも見ました。
by ミノ〜+ (2010-06-11 21:56) 

m

 コメントありがとうございます。私も広島長崎の原爆資料館は見学したことがありましたが、この本にはとてもショックを受けました。
 たぶん、「ハート・ロッカー」の監督だったのではないかと思いますが、「K19」という映画がありました。ハリソンフォード主演のソ連の原子力潜水艦の放射能漏れの実話をもとにした話です。
 日本人は唯一の被爆国の国民として、ある程度は原爆の知識をもっています。しかし、ソ連の兵士たちは、たぶん私たちの何十分の一の知識しか持ち合わせてなかったんでしょうね。その時にはたいしたことと感じていなくても、時間とともに、人間を破壊しつくす放射能の恐ろしさを本とは別の角度で感じることができました。
 「被曝治療83日間の記録」に比べれば、重みは違いましたが、私にとっては同時期に見たことはプラスになったと思っています。

 実は、この本をブログの話題にした理由は、ミノ~+さんの本棚にあった唯一の共通した本がこの本だったからです。このブログを立ち上げたのも、ミノ~
+さんの影響です。一番読んでほしかった人に、読んでいただき、しかも「nice!」までいただいて、とても喜んでいます。
by m (2010-06-12 06:30) 

m

 訂正
 ミノー+さんの本棚を見て、他にもいくつか共通の本がありました。ただ、その中で一番記事を書きたかったのが、「被曝治療83日間」だったので、この記事を書きました。
 他に共通の本としては

「パソコンを遊ぶ簡単プログラミング」(以前、読まずに十進BASICだけ使った。そういえば、コラッツの予想のプログラムをつくってみたことがあった。)
「アルジャーノンに花束を」(しばらく前に読んだ。映画「レナードの朝」を思い出した)
「素数大百科」(買ったけど、読んでない。ひととおり見るだけはした。高かった。)
「塩狩峠」(学生の頃読んだ。三浦綾子と曽野綾子がごっちゃになった。曽野綾子のだんなさんは三浦朱門。曽野綾子さんの「太郎物語高校編」はとても好きだった)
「車輪の下」(ある人にすすめられてつい先日読んだ。その人が感動した(と思われる)ほどには感動しなかった)

です。
 今度は、ミノー+さんのおすすめの本を何か読んでみますね。今のところ興味あるのは「タウ・ゼロ」と「人間の建設」です。
by m (2010-06-12 07:21) 

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