八甲田山 [小説]

新田次郎

新潮文庫の「強力伝・孤島」からの短編。
長編の八甲田山に比べ、おもしろい。
久しぶりに読み直しての感想。

他の短編もとてもおもしろかった記憶がある。(今回はまだ読んでいない)
この八甲田山にしても、わずか18ページ程度の枚数なのに、ついひきこまれてしまう。
重力ピエロでの浅い(軽い)文章を読んでいた途中だったので、特に新田さんの文章に魅力を感じた。
(伊坂さんの文章もわるくはないのだろうが、なんかつい比べてしまった)
まったく別のジャンルだから、比べること自体がまちがっているのだろうが・・・。

重力ピエロ [小説]

伊坂幸太郎

ーーーーーーーーーーーーー
「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」
ーーーーーーーーーーーーー

この話の肝はこの言葉かな。


筋はある程度読むとわかってしまう。
しかし、つい読んでしまうのは、この人の読みやすい文体と、ところどころにいれられたおしゃれな言葉のせいかもしれない。
文庫で読んだのだが、目次にでてくることばがなんかしゃれている。
この中にフェルマーの名前がでていたので、どんな関連かと思ったがたいしたことはなかった。

どこそこに、ちょっとした知識をひけらかすようなことが書かれている。雑学辞典を読んだようなお得な気分にはなる人もいるかもしれない。
この感じが好きな人は好きなのかもしれないが、いやな人はいやだろう。

お父さんとお母さんは実に魅力的だった。
伊坂さんの書く人物にはとても魅力的な人が時々現れる。

火葬場の煙が青い空に消えていく風景は、ひとつのことが終わってしまった後の妙に心が落ち着くときのことを思い出させた。
わかる人にはわかって、わからない人にはきっとわからない風景なのだろうな。

サクリファイス [小説]

近藤史恵

サクリファイスというと柳田邦男さんの話を思い出す。
この近藤さんの小説も共通したものを感じた。

この小説のテーマは「継承」かな。

自転車競技のことをまったく知らなかったが、とてもおもしろく読めた。
冒頭に事故の描写が描かれるが、誰の事故なのかどういう事故なのかわからないまま話は展開していく。
そして、その事故が致命的なものらしいことも、冒頭のこの文章から読み取れる。
ミステリーの分野に分類されるらしいが、自分にとってはスポーツ物かな。

続編があるらしい。
読んでみるか。

砂の女 [小説]

安部公房

なにかを例えてあるのだろうとは思いつつ・・・
話そのものがおもしろい。
(たぶん、高校のときにもそう思ったような記憶が・・・)

題名が「砂の女」なので、主人公は男ではなく「砂の女」なのだろう。
「肉弾」のあいつが隠れる砂浜や、一度だけ行った鳥取砂丘のイメージが重なった。
砂漠、ではなく、やはり日本の砂丘が思い浮かぶ。
筋(おおまかな流れ)はほぼ予想されるものではあるが、
先を読みたくなる文章の力はやはりすごいのだろう。

SFといえばSF。
他の安部公房の作品を読みたくなった。

告白 [小説]

湊かなえ

つい続けて読んでしまったので、おもしろいといえばおもしろいのかなあ?
なんといっても、まったく感情移入できない登場人物たち。
しかも、けっこう現実の中学生に近かったりするのがとても怖い。
唯一、感情移入できるのが主人公の先生だったりするが、
これもなあ・・・・
救い(?)は主人公の思ったとおりにことが運び、あだ討ち(?)が無事成功すること。
以前読んだ吉本ばななさんの「つぐみ」の女の子に近い感覚は嫌いではなかった。

「博士の愛した数式」(2004)
「夜のピクニック」(2005)
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(2006)
「一瞬の風になれ」(2007)
「ゴールデンスランバー」(2008)
「告白」(2009)
「天地明察」(2010)

以上本屋大賞の受賞作品。
このうち「博士の愛した数式」「夜のピクニック」「一瞬の風になれ」「告白」の4冊を読んだことになるが、どれもなあ・・・
本屋大賞は自分にはあわない、ということは言えそうな気がする。
それにしても読んだ4冊ともまったく感動とは遠かった(まあ「一瞬の風になれ」はまあまあよかったが)これらの本を大賞として推す「本屋大賞」という賞もどんな感覚の賞なのだか・・・

話が本屋大賞の話になってしまったが、人に薦めたい本ではないのはまちがいない。

西の魔女が死んだ [小説]

梨木香歩

とてもほめてあったので期待して読んだ。
で、まあ悪くはなかったが、そうほめまくるほどのものか?とも思った。

最初、ファンタジーと思ってまったく読む気もなかったのだが、そうではなくとてもいい話
ということで読んでみた。

似たような(?)本に「夏の庭」というのがあったが、
死を扱っていても格段に差があった。(私にとっては)
もちろん「夏の庭」が上である。

イギリス人のおばあさんも、そのだんなさんのおじいさんもとても魅力的ではあった。

そういえば、この小説で「銀龍草」という植物が重要な地位(?)をしめている。
私は小学生の頃、地元の新聞で「〇〇の博物誌」という連載があっていた。
その連載の中で一番、心ひかれたのがこの「銀龍草」だった。
ほんとうに、小さな銀色の龍のような草で、
最初、挿絵を見ただけで、信じられない思いだった。
しかし、近くの山で実物を見て感動してしまった。
銀龍草は、とってくるとすぐ黒くなってしまうらしい。

この銀龍草が橋渡しとなって・・・・なのだが、このあたりでやめておく。

その後の話も別に載っていて、これも前の話に関係なく軽くておもしろい。
タグ:銀龍草

二十四の瞳 [小説]

壺井栄

家にあった「二十四の瞳」を改めて読み直してみた。
壺井さんの文章は、なぜかあったかくて、読み進むほど、悲惨な話になるのにまったくその悲惨さを感じさせない。

壺井さんの戦争に対する怒りがこの小説の原動力だったのかもしれない。

今、不況といいながら、この大石先生の教え子たちのその後を考えたとき、なんと幸せな日々をすごしているのだろうと思ってしまう。わずか数十年前には、日本も貧しかったのだなあと再認識。

作者壺井栄さんの兄弟は12人兄弟だったらしく、それがこの二十四の瞳につながっているらしい。

「ある晴れた日に」での松江の弁当箱の話とソンキの写真の話は、過去、何度か読んだことがあるはずなのに、目頭が熱くなってしまう。
少しずつ読み進めるつもりだったのに、つい読み終えるまで夜更かししてしまった。心があったかくなる小説と言うのはやっぱりすごいなと思う。
壺井さんの生まれも、この小説の舞台小豆島ということだ。だからこそ生まれた作品なのだろう。

読んだことのある人も、読んだことのない人も、ぜひ読んでほしいと思いつつ・・・。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。